ちょっとコラム

隣の世界

私が大学生の時に経験した出来事です。
大学に入学したばかりの頃、親睦会ということで友人の家で食事会をすることになりました。
集まったのは5人。私を含めた3人が先に着きました。後の2人は遅れてくることに。

そのアパートは間取りがワンルームで壁も薄いため角部屋である友人の部屋にいると
人が階段を上がってくる音が聞こえます。
私たちは時折窓から通りを見ながらなかなか来ない友人たちを待っていました。

その時、車が止まる音が聞こえました。

「バタン。バタン」
「コッ、コッ、コッ」

車のドアが閉まり誰かが階段を上がってきます。

「あいつら、やっと来たね」

足音が部屋の前まで来た時、足音が止まりました。
が、いくら待ってもドアが開きません。友人が待ちきれずにドアを開けました。

「あれ?誰もおらんよ」

「おかしいね。確かに部屋の前で足音が止まったのに・・・」

「隣の部屋の人かもしれんね」

そんなことを話しながら私たちは待っていたのですが、結局、2人が来ることはありませんでした。

翌日2人に会い「昨日は来んかったね」と言うと、彼らは腑に落ちない顔をしてこう話し出したのです。

「昨日、俺らは行ったよ。少し遅くなったけん急いで行って。
 で、部屋のドアを開けたら靴はあったけど誰もおらんかったけん、しかたがなく帰ったったい」

「えっ? 2階の角部屋? 階段のすぐ横の」

「そうそう。何度も行ったことがあるけん間違えるわけがないやん」

私たちがいた部屋は玄関から部屋の全てが見渡せるほどの広さで隠れる場所などありません。
しかも、私たちは部屋に入ってすぐのところに座ってコーヒーを飲んでいたのです。
ドアを開ければ見えないはずがありません。
なのに、2人は誰もいなかったと言うのです。

あれから30年。

私たちは会うたびにあの出来事について話すのですが真相はわからないままです。
2人は私たちがいる世界の「隣の世界」のドアを開けたのでしょうか?

あるかどうかもわからない隣の世界。

今思えばあの出来事は私たちの心をつなぐためだけにあったのかもしれません。

日本高速情報センター協同組合 代表理事 草野 崇
(ETC高速代・ガソリンの経費精算業務をサポートします)

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