

夜だけの世界が手に入ったら、何をしますか?
誰にも邪魔されず、好きなだけ遊べて、勉強もできて、眠くならない。
そんな夢のような時間が続いたら、
きっと「王様になった気分」になるかもしれません。
漫画『ドラえもん』ののび太が、まさにそんな夢を体験します。
眠くも疲れもしない薬を使って夜を活動時間に変え、
自分の世界を満喫しようとするのです。
静まり返った街をひとり歩き、好き勝手にふるまい、
「これこそ理想だ」とばかりに自由を謳歌します。
けれど、自由には静けさがつきものです。
誰もいない夜の街はやがて虚しさを映す鏡になっていきます。
友だちを無理やり起こして遊んでも気持ちは高まらず、
王様のような特別な存在であるはずなのに、どこかぽつんと孤独を感じる。
のび太は気づきます。「自分の思い通りの世界」は
ひとりきりの世界でもあると。
私たちも似たような誘惑に陥ることがあります。
自分のペースで、自分の都合で、自分だけが快適に過ごせる世界。
SNSで好きな情報だけを選び、人との関わりを最小限にし、
効率ばかりを求める現代は、知らず知らずのうちに
「ひとりの王様」を目指しているのかもしれません。
でも、朝の光に目を細めながら「おはよう」と交わす言葉や、
たわいもない雑談、誰かと一緒に笑った時間。
それらは決して効率的ではないけれど、確かに心を満たしてくれるものです。
のび太は最終的に「やっぱりあったかい布団でぐっすり眠るのが一番」
と薬を手放し、みんなが過ごす昼の世界に帰っていきました。
“自分だけ”の快適さを追い求めるより、
誰かと笑い合える日常の中にこそ本当の豊かさがあるのかもしれません。
日本高速情報センター協同組合 代表理事 草野 崇