

姿は小さく、どこか薄暗い影のようでありながら、
人のようでもある。けれど、人ではない。
夜になると、その小さな存在は静かに少年の部屋に現れます。
最初は怖くてたまらなかった少年も、やがて気づくのです。
それが「悪いもの」ではないことに。
小鬼。
それは自分の中の恐れや孤独、そして想像力が形をとって現れたもの。
児童文学作家・佐藤さとるさんの作品『小鬼がくるとき』は、
そんな不思議な存在を通して、少年が“見えない世界”を取り戻していく物語です。
私たちもまた、心の奥に“見えない世界”を感じ取る力を持っています。
言葉にならない不安や、ふと胸の奥に差し込む寂しさ、
理由のない懐かしさ――そうした小さな揺れの一つひとつが、
私たちの内にある「気配」なのだと思います。
けれど、忙しい日々の中で、
そのかすかな声に耳を澄ますことを忘れてしまうことがあります。
そんな時、私たちはすぐに言葉で説明しようとしてしまう。
「なぜだろう」「どういう意味があるのだろう」と。
けれど、言葉にできるものだけが真実ではありません。
言語化するという行為は、わかりやすさの裏で、
言葉にならない“なにか”を切り捨ててしまうこともあるのです。
ときには、言葉にならないものを、そのまま受け入れてみる。
はっきりしない感情や、理由のわからないざわめきを、ただ「ある」と感じてみる。
そこにこそ、次の一歩へとつながる小さな気づきが潜んでいるのかもしれません。
日本高速情報センター協同組合 代表理事 草野 崇